リクルートに学ぶ自律的な組織の作り方 | 株式会社Colorkrew | 採用情報

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2021/06/23 at Online seminar

リクルートに学ぶ自律的な組織の作り方

2021/06/23 at Online seminar

リクルートに学ぶ自律的な組織の作り方

  • 藤井薫

    株式会社リクルート HR統括 編集長

    HR統括編集長。「リクナビNEXT」編集長。
    1988年リクルート入社以来、人材事業のメディアプロデュースに従事。
    TECH B-ing編集長、Tech総研編集長、アントレ編集長、リクルートワークス研究所Works編集部を歴任。
    リクルート経営コンピタンス研究所兼務。
    デジタルハリウッド大学非常勤講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授、千葉大学客員教員。 厚生労働省・採用関連調査研究会の委員歴任。
    著書に『働く喜び 未来のかたち』。

  • 中村圭志

    株式会社Colorkrew代表取締役

    豊田通商入社後、ドイツの関係会社へ出向、代表就任。
    2010年10月株式会社ISAO(現:株式会社Colorkrew)代表取締役就任。傾いていた事業を立て直し、会社を救う。徐々に組織の在り方を変えながら、2015年からバリフラットモデルと称して役職や階層を一切排除したフラットな経営を進める。Colorkrewを”世界のシゴトをたのしくするビジョナリーカンパニー”にするべく、自らもTeam Colorkrewの一員として経営を行う。

近年、マネジメントの形態が変わる現代において、社員一人ひとりが自律的に働ける組織の形成が重視されています。エンゲージメントの高い社員を育て、活躍の場を広げていくためには何をすればよいのでしょうか。 今回は株式会社Colorkrew代表取締役・中村圭志が、「人材輩出企業」と呼ばれる株式会社リクルートからHR統括編集長の藤井薫氏をお招きし、リクルート流の人材マネジメントについてお話をお伺いしました。

対談写真1

リクルートの心理学的経営とは

中村
リクルートの創業期に大沢武志さんという方が「個をあるがままに生かす心理学的経営」という自書の中で説明されています。 基本的に一番中心に「あるがままの個の受容」があり、それを包む形で「自律的な個の発現」があり、最終的にはそれらを抱擁した形での「意図的なカオスの創成」に繋げるという考え方です。
これはどんな意図を持ってまとめられたものなのか、個の受容あたりから教えていただけますでしょうか。
藤井
私の個人的な解釈で恐縮ですが、「心理学的経営」は、草や花の生態系にアナロジーできると思います。例えば、かすみ草に生まれた生き物が、ひまわりになろうとしても無理な話ですし、コケに生まれた生き物がチューリップにはなれません。
他人の人生を生きるよりも、一人ひとりがもつかけがえのない個性を見つめて磨いていくことがイキイキと生きる上で大事だという考え方だと思っています。
そうした個を磨いて受容して発現させていくためには、ひとつ外側にあるマネジメント、一番外側にあるカルチャーが大切です。かすみ草やチューリップといった個性を花開させるためには、良いマネジメントである水や風、光を与えて、良い根っこを張っていくためのカオス、カルチャーとなる土を耕していくのが大事であると理解しています。
中村
個を育てるための水や光は、会社の制度に当たるのでしょうか?
藤井
制度や風土も含めた人材マネジメントの重要な要素だと思います。自由裁量とか、失敗への寛容とか、いろいろなマネジメントによって個が発現していくということです。
中村
それらを包み込むのが、カオスを生み出せるようなカルチャー?
藤井
そうですね。組織というのはどうしても権威を生んでしまうので、力を持った人に中心点が移行してしまうものです。
そこでとにかく権威をばらして、ヘテロ集団という異質な人の集まりの中で本音の対話をしていくと、個が発現していきます。カルチャーは、「耕す」を意味するラテン語が起源です。土自体を耕して、どんどん異質でカオスな状態にしていくのはとても大事だと思いますね。
中村
僕もリクルートの考えに影響されている部分として、権威を偏らせないという考え方が重要だと思っています。
具体的に権威を分散させて、土を入れ替えていくにはどうしたらいいのでしょうか?
藤井
やはり制度より風土が大事です。どんなに制度を作っても、企業の中の風土、まさに風通しと文化的に揺るがない土台がないと形骸化してしまいます。
リクルートの場合は、日々の会話の中にマネジメントがあると考えていて、「あなたはどうしたい」という言葉が象徴的です。英語では「Why are you here?」といいますが、部下からの「どうしたらいいですか?」の質問に対して、上司はすぐに答えを与えず、逆に「あなたならお客さんにどのような提案がしたいのか」と、クエスチョン to クエスチョンで聞き返しています。
上司と部下の二項の関係に、顧客の不の解決という第三項を入れる。主従のタテの関係に、社会や顧客の未来のヨコの関係を入れる。こうした日常的な会話による風土によって、内向きの権威を外に拓いていけるのだと思っています。これがふたりの関係を同士関係にせず、お客さんの方向を向いたり、未来の社会に向いたりすることで、権威を壊していける風土が育まれるのだと思っています。
中村
会話の仕方に工夫があるのですね。
藤井
2月に出た江副さんの本『起業の天才!』(大西康之著、東洋経済新報社)の中でも、当社はコアコンピタンスに「Bet on Passion/個の尊重」を掲げ、若い人に「君だったらどうしたいの?」と言葉をかけていることが紹介されています。
例えば、夏休みの残り時間が少なくなって宿題どうしようと聞かれたときに、親が答えを言ってしまえば早く、宿題は完成すると思いますけど、また冬休みに同じ依存と服従の関係が繰り返されると思います。一方で、あなただったらどうするの?という問いは、一見時間がかかりそうですけど、主体的な個を発現し、中長期的に自走する個や組織の成長につながっていきますね。
中村
「Why are you here?」にはとても共感しますが、新人にとってはなかなか業務を教えてもらえず苦しむ状況にはなりませんか?
藤井
自転車から補助輪を取るタイミングのように、上司や先輩はある程度のサポートをしていくことも大事です。初めてのおつかいでも、車道に出ていく子どもをほったらかしにはできません。ガイドラインを作りながら、その中で自己決定させていくのが大事だと思います。
対談写真2

ティール組織は母性的?リクルートの父性とは

中村
Colorkrewは、バリフラットという部署も役職もないフラットな組織でして、外から見るとティール組織に見えるらしいのですが、中にいる人はマッチョな組織だと感じているみたいです。
その点リクルートとも似ていると思いますが、リクルートも獅子が子を崖から落とすみたいなタフな環境を若い人に与えていくとか、転職や起業などの卒業も応援するとか、両方の側面を持っていると思います。
リクルートはそのあたりのバランスをどう取っているのかをお聞きしたいです。
藤井
まさに「Will Can Mustシート」なんていうものが中で動いています。今の仕事で実現したいことや、将来どのような社会インパクトを生みだし、自分のキャリアを作りたいかという「Will」を描きながら、今持っている「Can」というスキルやコンピテンシーをどこまで持っていくか、この半期は何にコミットメントする「Must」があるのか、成果目標を持っています。
最近のベンチャー企業では、OKRやムーンショットのような、通常の努力では届かない高い目標を掲げますが、リクルートでも同じように考えられています。
それにもやはり「Why are you here?」、なんで僕たちはここにいるのだろうという意識は必要です。たとえばホットペッパービューティーであれば、髪を切りたいときにいつでも予約できるような社会を作ろうという意識。僕らが手を緩めたら日本や世界の不便は解消されなくなってしまうという、そういう社会的なソーシャルインパクトやパーパスと自分がいまここにいる意味を考えたときに、そんなに低い目標でいいのかと強く問われるので、ユング心理学的に捉えれば父性的な部分はとてもあります。
ユング心理学でいう父性的原理は、「切断する」です。相手を能力や個性に応じて類別し、強いものをつくりあげてゆく建設的な面と、逆に切断の面が強すぎて破壊に至る面と両面があります。対して、母性的原理は、「包含する」。相手を慈しみ育てる面と、逆にしがみつき呑み込んでしまう両面があります。その意味では、いまのリクルートには、父性の建設的な面と母性の慈しみ育てる両方があるのだと感じます。
中村
そのような事業のリーダーに求められるようなことを全員に求めていくと思いますが、事業の中にはリーダーもいればオペレーショナルな人もいます。
みんながリーダー的な考えを持つのは、リクルートのような大きな組織でも成立するのでしょうか?
藤井
いわゆるファーストペンギン、最初に突っ込んでいくような人をリーダーと呼ぶことに対して、ピッチャーの完封を支援させたいキャッチャーのような献身的なフォロワーリーダーシップというものはあると思います。
いわゆるオペレーション・エクセレンスを優先している方のフォロワー型のリーダーシップが組織に影響を与えることもありますので、そういうところもリクルートは評価して表彰しています。
中村
いろいろな役割があって、それぞれの中にリーダーシップがあるという考え方なのですね。我々は理念としてオープンということを非常に大事にしています。必要な情報をみんながどれだけ持っているかということが、エンパワーメントの根源にあるという考えを持っています。
藤井
Colorkrew様が受賞されたグッドアクションアワードで、今年カクイチさんという会社が受賞されました。電話とファックスだけで150年やっている会社で「Amazonって川のことですか?」という社員の方もおられるくらい、すごくアナログの会社でした。 そこがSlackを使って全員が情報を共有したら、すごく一人ひとりが自律的かつ自走的になりました。これまで多くの情報や知恵を持っていたベテランが若い人に教えたり、若い人からベテランに教えたりすることで年齢の階層がなくなっていったと聞いています。情報を透明に共有すると、一人ひとりが自律的に意思決定、組織全体が自走的に協働するようになる。トランスペアレンシー(情報の透明性)、オーナーシップ(個の自律性)、オートノミー(組織の自走性)。すべてが連動し、情報が組織にエンパワーメントしたとてもよい事例でしたね。
中村
情報の共有は、役職が上の人にとっては、自分のパワーの源がみんなにリークされる感じになるので、なかなかやりづらいことだと思います。
でもこれをやり出すとチームとしての力がすごく上がるのはカクイチさんの例でわかりますね。我々もそうですが、情報の共有にアレルギーがあるという組織は、情報の共有でどれだけチームの力が出せるかという事例を調べていただけると、興味を持っていただけるのではないかと思います。
反対に、リクルートさんにとっての母性とはなんでしょうか?
藤井
僕の体験談になっちゃいますが、池袋の営業所で中途採用の営業をしているときに、クオーターごとの営業目標を達成したときがありました。
そのときに3年くらい上の先輩から「最後の1か月の藤井の動き方は全然藤井らしくなかった。それでいいのか!?」と、猛然と怒られました。
外から見ると凄く詰められている、父性的に見えますが、もう一方では、持ち味を生かしていないことに対してすごく愛情を持って叱ってくれるという意味で、母性的だったとも感じています。
外形的な厳しさと、内面的に育むという意味での厳しさでいうと、先輩の声は僕の内面を考えてくれている、とてもリクルートの母性がでたエピソードだと思います。
対談写真3

組織におけるエンゲージメントとは

中村
エンゲージメントってちょっとバズワードっぽいので、そもそもエンゲージメントとは何かというところから入りたいと思います。
単純にイメージするのは繋がりみたいなものだと思いますが、会社と組織におけるエンゲージメントはただ繋がるのとは違うのかなと思います。
あたり藤井さんはどうお考えですか?
藤井
私は自称“漢字おじさん”でもあるので、そういった英語的な外来語がでてくると、漢字に直して本質の意味をたどっていきます。
エンゲージメントは、そういう意味では「結び」に見えます。結婚のエンゲージメントリングは結婚指輪。その中に「結(けつ)」や「結ぶ」という字が入っていますが、あの「むす」という言葉には2つの意味がありまして、ひとつはまさにコネクト的な「結(むす)」なんですけど、もうひとつに産むという意味の「産す(むす)」があります。
ひとりでは成し遂げられないような大きなパーパスに向かうときには、やっぱり単純な仲良しだけでは意味がありません。結びついた中から新しい価値を産み出す、お互いが貢献に向かって産もうとしているものも、エンゲージの中に入っているのではないかと思います。
中村
そういう意味では、繋がって価値を産み出すことも目的にして繋がり続けていくと、組織として良くなっていくということでしょうか?
藤井
そうですね。コロナ前に盛り上がっていた日本のラグビーはいい例です。本当に多様な人材が集まって、ワンチームになってエンゲージされていました。自分たちがこれまでのジャパンラグビー史にはなかったやり方で、ファンタスティックなプレーで世界を驚かせようと、新しい価値やクリエイティブなプレーや成果を産んでいったと思います。
ああいうエンゲージのためには、一人ひとりがフォア・ザ・チーム、チームのために献身する。そして自分の持ち味をちゃんと発露することで、組織がいい形でエンゲージされていくのではないかと思いますね。
中村
組織と個人の関係に戻りますが、日本の会社は「和を以て貴しとなす」という姿勢を大切にしていて、和が優先される部分があります。
それは階層型の考えにも通じてしまい、個人の主張が足りずに停滞を招く状況はあるかと思いますが、どのようなバランスでやればいいものでしょうか。
藤井
やっぱり漢字おじさん的には「和を以て貴しと成す」の「和」という漢字には、2つの意味があると思っています。ひとつはまさに乱さないための縁を作るというもの、もうひとつは「和える(あえる)」ですね。七福神のように、違った神様がひとつの船にのるからこそ力が出ます。統率はされているけど異なる一人ひとりが意見をぶつけ合うことが、最終的な商売繁盛に繋がるというのが七福神の持つ意味です。相手を尊重しながら忖度しないアサーティブコミュニケーションは、やっぱり日本がもっと学ばないといけないと思います。
中村
言いたいことを言い切るということですね。アサーティブネスというのは、我々Colorkrewでもキーワードになっています。尊重はしなさい、でも忖度はするなと。このふたつのキーワードは気をつけるポイントでいいなと思いました。
大組織の中では、新しいテクノロジーを知っている若い年代が、明らかに間違ったことを言っている決裁権限を持つ偉い人に何も言えないケースをよく見てきました。
会社全体がそうなっちゃっている会社は日本には多いと思いますが、リクルートではどんな感じでしょうか?
藤井
反権威主義の中にいるときは、日常会話の中に、MustやShouldよりも、Let’sやTryという言葉が多く、結果、組織の活性度が高くなって権威が壊れていくといわれています。上司は「すべき」「しなければいけない」とは言わず、組織の日常会話の中にレッツ、トライという言葉を意識的に話すよう促すといいですね。
一方で、若い人はお客さんの話などを引き合いに、ファクトフルに語るのが得意ですね。「黒船トーク」といいますが、アメリカやヨーロッパの事例やアメリカ証券所のデータを持ち出し「これじゃリクルートはまずいのではないですか?」と言ってきます。
中村
若い人が口を開かないときはどうしますか?
藤井
毎週私たちがやっているグループ会では、昔で言う連歌みたいに、全員で言葉をどんどん繋げて、回していくゲームを行っています。「スーパーの後に」「ショッピングモールにいたら」「狸が出てきて」「カレーライスを」「1年間食べて」みたいな、くだらない展開をしていきます。こうして全員で参加して、力を合わせると誰も想像しないようなクリエイティブが生まれるという空気を作っていくことができます。
中村
仕事とは関係ないけどチームでやったら面白い、という体験をさせていくのですね。
藤井
また、これはマイクロソフトの3代目社長サティア・ナデラさんの著書で知った変革の物語ですが、お互いがまだ信頼関係を築けていない経営執行クラスのメンバー同士を、ある金曜日の一日に、マインドフルネスのトレーニングの専門家の招聘して、研修を行いました。
そしてお互いに子供の頃からのルーツや人生観を開示して、お互いの人間存在をシェアすると、お互いを奪い合うライバルではなく、同じような傷みや苦しみを持った仲間で、より高いミッションの実現のために、お互いが不可欠な存在だと認識するようになります。
これによって効率性で集まっている組織から、存在性で集まる組織に変化します。やっぱり存在性というのは凄く大事なことなのです。
中村
うちの会社でも「あのふたりにやらせてみたい」というイメージが少し思い浮かびました(笑)。

まとめ

今回は、株式会社リクルートHR統括編集長の藤井薫氏より、個の力を育てる組織づくりについてお伺いしました。技術革新や新たな価値を生み出すためのマネジメントには、権威性の在り方が鍵となっているようです。リクルートにならうアサーティブネスな企業風土は、自律的な組織体制を作る第一歩となるでしょう。

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